はじめに
2022 年の振り返りとして、2022 年にリリースされたアルバムのうちよく聴いたもの、特にすばらしいと思ったものをまとめました。
アルバムタイトル一覧
- Dragon New Warm Mountain I Believe In You / Big Thief
- Mr. Morale & The Big Steppers / Kendrick Lamar
- NO THANK YOU / Little Simz
- Heaven, Wait / Ghostly Kisses
- A Light for Attracting Attention / The Smile
- The Gods We Can Touch / AURORA
- Hellfire / black midi
- Alpha Zulu / Phoenix
- MOTOMAMI / ROSALÍA
- Sad Cities / Sally Shapiro
- Wet Leg / Wet Leg
- Being Funny In A Foreign Language / The 1975
- caroline / caroline
- Dawn FM / The Weeknd
- Are We Gonna Be Alright? / Fickle Friends
- Three Dimensions Deep / Amber Mark
- Florist / Florist
- Blue Rev / Alvvays
- IRE / Combo Chimbita
- Laurel Hell / Mitski
- SOS / SZA
- CRASH / Charli XCX
- Melt My Eyez See Your Future / Denzel Curry
- a.k.a YAYA / YAYA KIM
- How Is It That I Should Look At The Starts / The Weather Station
- RAMONA PARK BROKE MY HEART / Vince Staples
- Once Twice Melody / Beach House
- RENAISSANCE / Beyouncé
- Flood / Stella Donnelly
- Hold The Girl / Rina Sawayama
- Midnights / Taylor Swift
- Natural Brown Prom Queen / Sudan Archives
- And In The Darkness, Hearts Aglow / Weyes Blood
- Stumpwork / Dry Cleaning
- The Car / Arctic Monkeys
- Hiding In Plain Sight / Drugdealer
- Whether Alive / Beth Orton
- CLEARING / Hyd
- Come Around / Carla del Forno
- Pompeii / Cate Le Bon
- Untitled (God) / SAULT
- Blind / Jameszoo
- 2000 / Joey Bada$$
- Motordrome / Mø
- Sin City / C.Gambino
- Monologues / Ogi
- José Louis And The Paradox Of Love / Pierre Kwenders
- Two Ribbons / Let's Eat Grandma
- Sometimes, Forever / Soccer Mommy
- The Haunt / Mitch Davis
詳細
Dragon New Warm Mountain I Believe In You / Big Thief
ブルックリン出身のインディロックバンド Big Thief の 5 作目。2 枚組、合計 80 分という大作でありながら緩急あり飽きない。アコースティック中心で静かな曲が多いのに、曲ごとに音の表情ががらっと異なるように聴こえるのはなぜだろう。
#1『Change』は落ち着いたミニマルな演奏に、やはり穏やかで静かなヴォーカルが美しく哀愁のあふれる詩を紡ぐ。"Would you live forever, never die while everything around passes?"(すべて移ろいゆくのに、死なずに一生生き続けるのか?)、"Would you stare forever at the sun and never watch the moon rising?"(永遠に太陽を見続けるのか?月がのぼるのを見ることもなく)というような、生や明るいものに執着する態度を諭すような詩はややもするとありきたりだが彼女の声で聴くと真に迫る感覚があるから不思議だ。
静かな曲が多いと書いたが、ポップでかわいい #3『Spud Infinity』や明るいカントリーの #11『Red Moon』など穏やかな曲たちに明るい彩りを添える曲も存在する。
全体を通して名曲揃いだが中でも #17 の『Simulation Swarm』はイントロを聴くだけでその完成度の高さにため息がこぼれてしまうほどの名曲。いや、イントロはシンプルなアルペジオのリフが繰り返されるだけ(あえて「だけ」と言う)のものなのにここまで素晴らしさを確信させてくる理由がわからない。すべてを説明する一行の方程式のような、そんな美しさである。ギターソロでがらっと雰囲気が変わるのも含めて名曲であり、今後も彼女らを代表する一曲になるだろう。
11 月、恵比寿にて行われた彼女らのライブを観に行った。ライブで聴くと、音源で聴くのとまた打って変わり、かなり激しい演奏・歌という印象で、そのギャップに驚かされると同時に曲の魅力がさらに増した。間違いなく 2022 年のベストオブベストと言えるアルバムだろう。Mr. Morale & The Big Steppers / Kendrick Lamar
ケンドリック・ラマーの 5th。サウンド面では、ピアノの音色やエレクトロのような曲、タップダンス(足音)など多彩ながらも全体的に激しさを抑えた静かな曲調が目立つ。歌詞に目を向けるとどの曲もメッセージ性に富んでいる。自身に関する社会的イメージと自認のギャップに悩み、BLM 的な文脈で黒人コミュニティを代表するある種のアイコンとしての役割を押し付けられることを拒み、ケンドリック・ラマー個人としての生活や愛といったものを選択するという思いが主に歌われている。
#1『United in Grief』では "I bought a Rolex watch, I only wore it once"(ロレックスを買った、俺はそれを一度だけ身に付けた), "I bought infinity pools I never swimmed in" (大きいプールを購入した、一度も泳がなかったが)と物質主義的な消費活動の虚しさを示唆するリリックが散りばめられ、続く #2『N95』では "Take off the Chanel, take off the Dolce, take off the Birkin bag. Take all that designer bullshit off, and what do you have?"(シャネルを捨てろ、ドルガバを捨てろ、バーキンのバッグを捨てろ。お前が身につけているハイブラを全部取り去ったあとでお前には何が残ってるんだ?)と、より直接的に問いかける。この曲では "What the fuck is cancel culture?"(キャンセルカルチャーっていったい何だよ?)と、近年のキャンセルカルチャーにも疑問を呈している。
#3『Worldwide Steppers』では白人女性 (a white bitch) とのセックス (fuck) の経験について語られるが、「俺がファックするさまを先祖が見ていて、それは報復のようだった」と、白人による黒人への迫害の歴史を現代の白人女性とのセックスにより復讐心を満たす感情を表現している。
#4『Die Hard』はメロディアスで聴きやすく、ラップ部分も押韻がわかりやすくかっこいい。歌詞は「すべてを手に入れても君がいなければまったくの無駄なんだ」とストレートなラブソング風だがアルバム全体で聴くとこれも彼の本心の吐露であるのだろうと感じられる。
#7『Rich Spirit』では "IG’ll get you life for a chikabooya"(インスタグラムはお前の人生を写真のための人生にしてしまう), "Thoughts and prayers, way better off timelines"(思索に耽ったり祈りを捧げることはタイムラインよりずっといい) 等、SNS に浸食される現代社会への警句が並ぶ。
#8『We Cry Together』は男女の口論がそのまま曲になっていて音楽的に面白い。歌詞も一聴するとどうしようもない喧嘩で、冒頭の "This is what the world sounds like"(世界で起きていることはこの曲のように聴こえる) というセリフで、やはりこの曲からもケンドリックの嘆きのようなメッセージが読み取れる。
#9『Purple Hearts』は前半の総括的な曲でもあり、"I'm not in the music business, I been in the human business"(俺は音楽ビジネスに関わっているのではなく、人間をテーマにビジネスしている), "They gon’ judge your life for a couple likes on the double tap"(ダブルタップの「いいね」で人生が判断されちまう)などの詞は印象的だ。
#10『Count Me Out』では "I love when you count me out"(仲間外れにされると嬉しい)、#11『Crown』では "I can't please everybody"(皆を喜ばせることはできない)と、黒人コミュニティのアイコン的立場から降りたいというケンドリック自身の正直な内面(かつアルバム全体を貫くテーマ)がさらけ出されている。
続く #14『Savior』はひときわ印象的で、のっけから "Kendrick made you think about it, but he is not your savior"(ケンドリック(俺)は問題を考えさせたが彼(俺)はお前らの救世主ではない)という一節から始まる。その後も、"Even blacked out screens and called it solidarity"(SNS に真っ黒な画像をアップしてそれが団結だと言ってたな), "Bite they tongues in rap lyrics"(ラップのリリックでも本心を言えず、)から始まるバースでは「ラッパーたちは(本音を述べた)曲を作って非難の的になることを恐れてる、本人は認めないだろうけど」「政治的に正しい(ポリティカル・コレクトネス)かどうかが意見を持つ基準なんだな」「黒人も口を開こうとせず、他人と異なる振る舞いをすることを恐れている」と問題提起の言葉が並ぶ。その後も、ワクチン接種反対派への皮肉や疑問、「お前は 1 日プロテスト(差別への抗議活動)してみただけかもしれないが俺は 365 日がプロテスト」という直接的な言葉、「ウラジーミル(プーチン)は悪夢を生み出している、しかしそれも我々側の考え方にすぎない」という欧米中心的な世界情勢の捉え方を一歩引いて見つめる視線などが歌われる。他の部分も今の物質主義的な世の中の風潮や、正義面をした人間に垣間見える欺瞞への批判に満ち溢れた一曲である。
#17『Mother I Sober』では黒人という人種的集団に何世代にも渡って受け継がれるトラウマからの解放をテーマに、内省的で神経質でなおかつ激しいラップが繰り広げられる。
最後、#18『Mirror』はこのアルバムを締めくくるに相応しく、"I choose me"(俺は自分を選ぶ)、"you won’t grow waiting on me"(俺を待っていたのでは成長できないぞ)、"Sorry I didn’t save the world, my friend"(すまないが俺は世界を救えなかった)と、本作を貫くケンドリックの姿勢が印象的な言葉で繰り返される。
このように全曲でケンドリックの正直な感情が表出しており、かなりヘビーな大作である。テーマ的にも軽々しく聴けるものではないのだが、一方で曲の多彩さやラップのうまさのおかげか、疲れることなく最後まで聴けてしまうのも彼の才能のなせる技か。ケンドリックは黒人コミュニティのリーダー的なポジションを拒み、自分自身や自身の半径数メートルを選択すると歌っているが、それでも決して社会の問題に口を閉ざし牧歌的な生き方を選ぶと言っているわけではなく、むしろその逆で、(何らかのコミュニティを代表した意見表明や社会運動への参加はしたくないとしつつ)自分の言いたいことは言いたいように言うという宣言のようにも感じられた。NO THANK YOU / Little Simz
12 月にリリースされた Little Simz の 5th アルバム。昨年発売された Sometimes I Might Be Introvert も非常に傑作で、俺の年間ベスト No. 1 であったが、今作もまた素晴らしい。
#1『Angel』は落ち着いたトラックをバックに彼女らしい淡々としたラップを聴ける。
#2『Gorilla』は "Sim Simma, who got the keys to my bloodclaat Bimmer?" という一節から始まるがこれは Beenie Man の『Who Am I? (Sim Simma)』という曲からの引用。Sim Simma というのは仲間同士の挨拶程度の意味らしいが、Little Simz が鏡を見ながら「この女は誰だ?」と語りかけるライン ("Who is this woman that I'm seein' in the mirror?") があるこの曲の冒頭でこの掛け声が登場するのは言葉遊びとしても面白い。
ちなみに、鏡に映る自分や、自分の二面性は前作でもたびたびテーマとして述べられており、たとえば『I love you, I hate you』では "Hard to confront the truth of what you see in the mirror"(鏡に映るものの真の姿を直視するのは難しい)、『Introvert』では "Simz the artist or Simbi the person?"(Simz はアーティストで Simbi(Little Simz の本名)といえば個人?)などというリリックが登場しており、今作でも同様のテーマが引き継がれている。さらにこの曲『Gorilla』のリリック "Introvert, but she ain't timid. My art will be timeless, I don't do limits. Be very specific when you talk on who the best is"(私は内向的(Introvert は前作のアルバムタイトルの一部およびその 1 曲目のタイトルでもある)だが臆病ではない。私の作品は時代を超える、私に限界はない。誰が一番なのか具体的に名前を言ってみろ)はかっこよすぎる。Little Simz さんあなたが一番です。
#3『Silhouette』はグルービーなトラックにゴスペルのコーラスが乗っかった、前作同様ヒップホップの枠に囚われない音楽を楽しめる。前作収録『Woman』で共演した Cleo Sol はこの曲にも参加しているが相性抜群である。
#5『X』では、やはりゴスペル調のコーラスをバックにストリングスの壮大な演奏をバックに盛り上げていくラップを楽しめる。
#7『Broken』では '"Man, this week has been tough," been sayin' that for a year'(「今週は大変だった」そう言い続けて一年), "Why is mental health a taboo in the Black community?"(黒人コミュニティではメンタルヘルスがタブーとされるのはなぜ?)というラインを始めとしてつらい境遇やメンタルヘルスの問題が赤裸々に語られる。
優しいバラードで希望が見出される #10『Control』まで全曲 Little Simz というアーティストの多才さと曲の多彩さを堪能できるアルバムである。ラップやヒップホップという枠だけで語ることはできない。一生このアーティストを聴いていきたいと思った。ちなみに、2022 年は Little Simz のライブを二度観たが最高のパフォーマンスだった(元々一度だけ観るつもりだったのが良すぎてもう一度観た)。Heaven, Wait / Ghostly Kisses
フランス系カナダ人 Margaux Sauve によるソロプロジェクト Ghostly Kisses の 1st。アルバム全体を通して貫かれる落ち着いた優しいサウンドと、美しくも芯のあるヴォーカルが印象的。Ghostly Kisses という名前が不思議なくらいしっくりくる珠玉の曲たち。#5『A Different Kind of Love』はメロディーラインも秀逸で心に直接訴えかけてくるような一曲。最高。
A Light for Attracting Attention / The Smile
Radiohead のトム・ヨークによる新たなバンド The Smile の 1st。Radiohead 的な繊細な演奏はそのままに、しかしたとえばガレージロック風の #3『You Will Never Work In Television Again』やインディロック調?の #12『We Don't Know What Tomorrow Brings』など近年のトム・ヨークのイメージとは異なる新鮮な曲や、エフェクトを多用した #7『Thin Thing』、アコースティックの演奏が心に沁みる #9『Free In The Knowledge』など、トム・ヨークがここに来てやりたいことを好きにやっている感じで最後まで本当に楽しめるアルバム。
The Gods We Can Touch / AURORA
ノルウェーの歌姫 AURORA の 4 枚目。全体的に非常にポップに出来上がっており聴いていて大変楽しい。ただしポップなだけでなく、美しさやどことない暗さもひっそりと同居し、繰り返し聴いていても飽きのこない作品。
#1『The Forbidden Fruits Of Eden』は 40 秒のインスト曲だがアルバム全体の幻想的、神話的、耽美的な雰囲気を過不足なく表現しきっている。#4『Cure For Me』はとりわけキャッチーで彼女のヴォーカルの魅力を最大限味わいつくせる一曲。他にも #15『A Little Place Called The Moon』は蘇州夜曲的な、中国音楽の香りがするなど聴きごたえたっぷり。Hellfire / black midi
black midi の 3rd。ポストパンクっぽさは全体的に感じさせつつ、サクソフォンなどのホーン隊の演奏が目立つプログレ感満載なアルバム。実験的でカオスな演奏だなと思わせられるが、アップテンポなロックの演奏のおかげかキャッチーで楽しい。逆に言えば、ロックの要素がわりと目立つのに新鮮でオリジナリティあふれる快作。
Alpha Zulu / Phoenix
フランスのインディロックバンド Phoenix の 7 作目。インディロック要素を中心としながらシンセでダンサブルな出来栄えに仕上がっている。#1『Alpha Zulu』から名作を確信させる素晴らしさ。#2、Vampire Weekend の Ezra Koenig を迎えた『Tonight』もポップな名曲で聴き手を魅了する。アルバム全体で 35 分という聴きやすさでありながら非常に良いバランス感で飽きのこない作品。
MOTOMAMI / ROSALÍA
スペインのアーティスト ROSALÍA の 3 作目。フラメンコと現代の実験的なポップスの意欲的な融合で、1 曲目から聴き手をぐっと掴んで離さない。ポップで聴きやすいのに上述のとおり実験的で先鋭的で楽しい、唯一無二と言っても過言ではない傑作。
Sad Cities / Sally Shapiro
スウェーデンのイタロ・ディスコ(イタリアン・ディスコ)、シンセポップのデュオ Sally Shapiro による 4 枚目。シンセサイザーを多用した耽美的で官能的な演奏と、ドリームポップに通ずる浮遊感あるヴォーカルで、まさに自分の好みドンピシャなアルバム。
Wet Leg / Wet Leg
Being Funny In A Foreign Language / The 1975
caroline / caroline
Dawn FM / The Weeknd
Are We Gonna Be Alright? / Fickle Friends
Three Dimensions Deep / Amber Mark
Florist / Florist
Blue Rev / Alvvays
IRE / Combo Chimbita
Laurel Hell / Mitski
SOS / SZA
CRASH / Charli XCX
Melt My Eyez See Your Future / Denzel Curry
a.k.a YAYA / YAYA KIM
How Is It That I Should Look At The Starts / The Weather Station
RAMONA PARK BROKE MY HEART / Vince Staples
Once Twice Melody / Beach House
RENAISSANCE / Beyouncé
Flood / Stella Donnelly
Hold The Girl / Rina Sawayama
Midnights / Taylor Swift
Natural Brown Prom Queen / Sudan Archives
And In The Darkness, Hearts Aglow / Weyes Blood
Stumpwork / Dry Cleaning
The Car / Arctic Monkeys
Hiding In Plain Sight / Drugdealer
Whether Alive / Beth Orton
CLEARING / Hyd
Come Around / Carla del Forno
Pompeii / Cate Le Bon
Untitled (God) / SAULT
Blind / Jameszoo
2000 / Joey Bada$$
Motordrome / Mø
Sin City / C.Gambino
Monologues / Ogi
José Louis And The Paradox Of Love / Pierre Kwenders
Two Ribbons / Let's Eat Grandma
Sometimes, Forever / Soccer Mommy
The Haunt / Mitch Davis